がん治療がb型肝炎キャリアにもたらす危険性

b型肝炎は無症状のことも多く感染に気づきにくい病気です。そのため自分には関係はないと思っている人も多くいます。しかし最近では若い人がb型肝炎ウイルスに感染してしまうことが増えています。b型肝炎ウイルスは放置すると肝がんになったり、ほかの部位のがん治療に影響を及ぼすこともあります。

どういったことで肝炎ウイルスに感染してしまうのか、ウイルスとがん治療がどのような関係にあるのかを詳しく見ていきましょう。

性行為でも感染するb型肝炎ウイルス

b型肝炎はb型肝炎ウイルス(HBV)の感染によって起こる病気です。かつては出産の際に起こる母子感染の割合が多く、またb型肝炎ウイルスが混入している血液を輸血することによる感染もよく見られる事例でした。しかしb型肝炎母子感染防止事業が実施され、献血の際にHBs抗原検査が行われるようになってからは、こうした母子感染や輸血感染はほとんど見られなくなったのです。

ところが近年、若い人たちを中心にb型肝炎ウイルスへの感染が広がりつつあります。この原因は性交渉によるものとみられています。b型肝炎ウイルスへの感染は、ウイルスを保持している人との注射針の共有や、医療中のミスなどが原因で起こる血液を介する感染経路のほかに、性交渉によっても感染が確認されています。

これはb型肝炎ウイルスが、血液だけでなく精液・体液・分泌物にも含まれているからです。不特定多数の人と性交渉を行うことで、b型肝炎ウイルスに感染するリスクが高まってしまうのです。

自覚症状がないというリスク

なぜ性交渉によるb型肝炎ウイルスへの感染が広がりつつあるのでしょうか。これはb型肝炎ウイルスというのは、感染しても目立った症状がほとんど出ないことが原因としてあげられます。b型肝炎ウイルスに感染すると、その人はHBVキャリアと呼ばれることになりますが、一定期間を免疫寛容期として過ごすこととなります。

この免疫寛容期中もHBVは増殖を続けますが、ウイルスに対して体が免疫反応を起こさず肝機能も正常であるため、本人は何の自覚もないことが多いのです。この状態のことは無症候性キャリアと呼んでいます。もちろん体に全く異常はなくても、体内ではHBVは増殖し続けているので、この期間に性交渉などをすることによって感染を広めてしまう可能性があるのです。

精液だけでなく体液を介しても感染するため、コンドームを使用していてもオーラルセックスなどを行っていれば感染の可能性は排除できないこととなります。実は多くのHBVキャリアの人は、このまま無症状で自然治癒していくこととなります。

一定期間HBVは増殖を続けますが、やがて体に免疫がつくと、ウイルスは体外に排除されていき発症することはなくなるのです。この状態は不顕性感染とも呼ばれています。

急性肝炎として発症しても症状は治まる

免疫寛容期を過ぎて免疫排除期となると、健康診断の検査項目であるALT値の数値が急上昇することがあります。つまり肝臓が炎症を起こしているのです。ただし何の治療を行わなくても、自己免疫機能が働いてウイルスを体外に排除していくと、そのうちに自然治癒していくことも珍しくありません。

具体的な症状としては、倦怠感や食欲不振、吐き気などが一般的です。こうした症状は疲れによるものと誤解されやすく、病院にいかないという人も少なくないでしょう。急性肝炎が劇症肝炎とならなかった場合は、数か月もすればALT値も正常に戻り、肝炎も治まっていきます。

つまり非活動性キャリアとなるのです。こうしたb型肝炎ウイルスというのは、キャリアであっても生活には何の支障もなく過ごせてしまうため、自分で感染に気付いていない人が多いという点が問題でもあります。なぜなら日本人の2人に1人が発症するといわれるがんに罹患し、治療を始めるとウイルスが暴れだすことも少なくないからです。


がんとb型肝炎ウイルスの関係

若い人の性感染症によるb型肝炎感染者が増えているとはいえ、日本国内におけるb型肝炎キャリアの割合は、感染防止の取り組みが不十分であった50代以上が大半です。全体としては50代以上の5分の1ほどがキャリアなのではないかと言われています。

しかし彼らの多くは自覚症状がなく、自身がキャリアであることにも気付いていません。しかし中高年以降になってがんを発症し、治療を始めると問題が生じることが少なくないのです。がん治療では一般的に、抗がん剤や免疫抑制剤などを投与して治療を進めていきます。

この治療が、眠っているb型肝炎ウイルスを再活性化させて、肝炎に移行させてしまう原因となるのです。もしがん治療によってb型肝炎ウイルスが再活性化した場合、一般的な肝炎の発症よりも劇症化する頻度が高く、死亡率も高いということが分かってきました。

そこで再活性化を予防するために、HBVキャリアの人はがん治療の際に、HBVの増殖を抑える予防薬の投与を検討されることとなります。b型肝炎の感染は、慢性肝炎への移行による肝硬変や肝がんだけではなく、がん治療の化学療法においても細心の注意を払わなくてはならないのです。

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b型肝炎ウイルスは完全に排除することができない

現在の医学では、b型肝炎ウイルスに感染してしまった場合、体内から完全にHBVを排除することは出来ません。つまり、うまくキャリアとしてウイルスと付き合っていくしかないのです。母子感染や輸血による感染はほとんど見られなくなっていることから、まずは性交渉などからの感染を予防することが最も大切です。

それとともに、50代以上の人はすでにキャリアとなっている可能性が高いとみられるので、自覚症状がなくてもb型肝炎ウイルスへの感染がないかどうかを、b型肝炎ウイルスマーカー検査によって知っておくことが重要でしょう。

現在、がん治療において免疫抑制治療や化学療法を行うときには、肝機能に異常がなくてもHBVのスクリーニング検査をする必要があると定められています。ただしこの検査においても、キャリアであるのにHBs抗原が偽陰性となる可能性はゼロではありません。

また、がん治療を続けていく上でHBVの増殖を抑えていくことは重要なポイントですが、キャリアであることを初めから自覚している方が、肝臓専門医と連携しながらがん治療を進めていきやすくなります。b型肝炎ウイルスキャリアとがん治療の関係性は、2000年以降にわかった新たな問題です。

がん専門医と肝臓専門医がうまく連携をとって治療を行っていくためにも、患者自身がもっと早くb型肝炎ウイルスのキャリアであることに気づくのが重要でもあるのです。